金の刻がふたつも過ぎると、森はいっぱいに光の滴を受けとめて、震えるような音楽を奏で始める。
オロメは気にかける若芽の近くで大地に転げて、草のそよぎと鳥の囀りと、滴の歌を聴いていた。
その調べに地を弾む軽やかな足音が混じり、オロメは密かに喉を鳴らす。
ほどなくまるで燃える塊がオロメの腹に飛び込んでくる。
ちいさな手がもっと近くに寄ろうと引っ張り、実りを集めたような金の頭が腹に埋まる。ふんふん、と共に来た仔犬のような仕草でいるのを、オロメは首だけもたげて見る。視界の端では件の仔犬が所在無さげにくうんと鳴き、すると腹の上の幼子は頭をやたらに振って、ぱっと顔を上げた。
「けっこうちがった」
真面目な顔で呟くのにオロメは笑みを零し、ちいさな頭をかき回す。
「どうした」
半身を起こして訊くと、ケレゴルムは腹の上から転がり落ちかけ、飛びつき直してオロメを見上げた。
「じじさま、おそとであうと森みたいなかんじがするの!」
「……ほう」
重大発見!と続けそうな輝きに満ちた漆黒の瞳を見つめ返しながら、オロメは先を促した。ケレゴルムはふにゃりと笑った。
「オロメさまとにてるかなとおもったけど、ちがいました」
「そうか」
「おうちだとぜんぜん森っぽくないです」
「…ああ、狐殿か。マハタンは、そうか、森っぽいか」
この幼子の祖父を双方ともかなり良く知るだけに、曰くの森っぽいには違和感しかない。だが「おうちとおそと」と言うからには、なるほどあまり気づくもののない性質とでも言うべきところへの勘働きが、ケレゴルムはどうやら強いらしい。
「あれは鋼を愛するがゆえ、今は石に近かろうな」
ケレゴルムはぱしぱしと瞬きをすると、森でも、と続けた。
「しずかで、おおきくて、きりがおおいようなかんじの」
「苔が多く、緑濃く、しんと胸の痛むような?」
重ねてやるとケレゴルムは恐る恐る頷いた。オロメはこの幼子からすればはるか昔のことを思い出す。
「火を抱く土、水を支える石、そうだな、木に近かった。ヤヴァンナの領域だ。向いていたのは」
「じじさま、森っぽいのがほんとですか」
「向くものを志すとは限らぬでな」
オロメは言い、低く笑う。ヤヴァンナが盛大に嘆いていたのを思い出す。
ケレゴルムはうーうー唸り、むいてないけどがんばる、と言って、およそ幼子に出来る限りの顰め面になった。
「むいてないけど、それがすごくすきとか、そういうときはどうするの?」
「愛する方を選べば良い」
漆黒の瞳を覗いて告げると、まんまるに零れそうな形になる。
「すきなほうでいいのですか…」
「好きな方でなければ駄目だ」
心が求める方でなければいけない。オロメはケレゴルムを抱き込んで転がってみる。
「アウレは幸運だな」
呟く、腹の上で幼子は落ち着かなげにもぞもぞとしていたが、仔犬が近寄って丸くなるとおさまった。