妹アンドレスには妙な癖がある。
 賢さゆえだろうか、彼女は歩いている時に、ふと、心が彷徨うように彼方へ向かってしまうのだ。
 そうなるとアンドレスの歩みはたいそう覚束ないものになり、1歩ごとにじりじりと右へ逸れていく。
 わたしは彼女の左手を掴み、まっすぐに道を正す。
 彼女は何も言わない。わたしも何も言わない。気づいた時からずっと、わたしはそうやって妹の歩みを正し、彼女は心を彷徨わせたまま歩み続ける。
 アンドレスは、自らのその妙な癖に気づいているのだろうか?

 夕暮れのことだった。
 金色に変わった草のそよぐ原を歩いていた。ふたりきりではない。皆、いた。そうだったと思う。
 平たく広がる原は沈みゆく陽光の名残で金から赤へ色を強め、何か雲を歩むような心地になったのを覚えている。
 アンドレスもまた、そのようだった。雲を踏むような足取りで、ああ、またいつもの癖だ。
 引き戻してやらなくては。
 わたしは彼女のすこし後ろを歩んでいたのだ。
 その時。
 彼女の右手に誰かが立った。――あ。その刹那に彼女はその誰かにぶつかり、夢から覚めたように顔を上げた。

 ごくごく低い声で短い会話が交わされる。
 アンドレスは目を伏せ、ほのかに微笑んだ。
 わたしは胸苦しさを覚えて立ち止まった。
 金色の時間だ。
 わたしは咽び泣きたくなる気持ちでふたつの背中を見送った。

 アンドレスと彼は歩んでいく。アンドレスの右手に彼が立っている。
 彼女の心は彷徨ってはいない。歩みは雲の上にはない。そしてもし彼方へ飛んだとしても、もう、その右手には彼がいる。

 実りだと、そう思ったのだった。
 あの、金色の――