フィンディス

 父と一緒にいる時のフェアノールは特に大好きだが、フェアノールといる時の父は大嫌いだった。

「お姉さまは、何がそんなに欲しいの?」
「………」
 フィンディスは黙って妹を見た。
「そんな怖い顔をなさることじゃないわ。分からないだけ」
 イリメは微笑む。
 フィンディスは、この父似の妹を半ば恨めしく思った。
「望んではいけないのか」
 声がずいぶん刺々しく響いて、フィンディスは驚く。イリメは微笑みを崩さずに、父とそっくりの灰色の瞳をみはった。
「…王は、わたくしに期待なさらないでしょう?」
 きゅっと唇を結んで、フィンディスは言葉を待った。妹は続けた。
「でも、父上はわたくしを愛してくださってるわ」
 フィンディスの手をとって、イリメは、背の高い姉を見あげる。
「それだけで充分なのではなくて?」
「……わたくしには足りない」
 妹を抱きしめてフィンディスは言った。
「わたくしには足りない。世界すべても、父上の愛も」
 後にしてきた光景を思い出す。あんなに一身にその愛を受けて、それでも異母兄は怯えている。世界の喪失に。
(……苦しい)
 思って、呟く。自らを納得させるように。
「足りない…」
 イリメはただ、そこにいてくれた。