サムワイズは3番目の娘である赤子を覗き込んで、たんぽぽみたいな金髪だな、と思った。娘だから花の名前が良いけれど、たんぽぽはちょっと不向きのように思われた。エラノールがサムワイズに抱きつくように妹を覗き込んで、父ちゃん、すごくくるくるの捲毛ね!と弾んだ声で言った。
(とても単純な意味なのだよ。)
ふと、鈴の鳴るような声が耳元で聞こえた気がした。サムワイズは目を瞬いた。
言ったのはグロールフィンデル、あの大いなる年に出会ったエルフの中でも印象的なひとりだ。
あまりにも切羽詰まった時に出会ったし、その後すぐに非常な勇士であるのが知れた。気おくれするなんてものじゃなかったが、裂け谷にいる間にひょんなことから少し話した。
彼の名前はサムワイズからしたら少し長すぎる。グロールフィンデル殿、何度か噛んだ。
「グロールでも構わない」
優しく言われたが、はいそうですだか、と呼び変えられるような仲でもない。いやいやそんなわけには、と首を振ったサムワイズに、そんな大層なものじゃない、わたしの名前はとても単純な意味なのだよ、とグロールフィンデルは、その豊かな金髪を、くるり、手巻いて見せた。
「グロール・フィンデル。金の捲毛というんだ」
「……たんぽぽみたいなお色ですだね」
グロールフィンデルは晴れやかに笑うと、真面目な顔をして囁いた。実は春になると、わたしの皿にだけよく飾ってある。
あいにくと春の裂け谷に訪れる機会はなく、その真偽をサムワイズは知らない。
「ゴールディロックス」
ぽつりと漏らすと、エラノールは父を見上げて目を輝かせた。金の捲毛ちゃん!良い名前だわ!
サムワイズは微笑んだ。いつかお前の名前はエルフの勇士からとったと言ったら、どんな顔をするだろうか。赤子はまろやかな眠りの中で、ふと、ぷう、と鼻を鳴らした。