序文

 ノルドールの始祖王フィンウェが、全クウェンディで唯一、二度の結婚をしたことはすでに語った。

 さてその二度目の妻はヴァンヤールであり、初めての別氏族婚であったとする者は多い。アマンに来たるまで、クウェンディの間では、同氏族での婚姻が主流であり、ヴァンヤとノルドが、またテレリとノルドが婚姻することはなかった。
 そんな考えはどこからも出なかったが、たとえ出たとしても惹かれあうかれらの親や家がそれを拒んだであろう。クウェンディは種族として若く未熟であったため、互いの血を混ぜて純粋な血を薄めるのをよしとしなかったのである。
 だがアマンにてクウェンディは繁栄し、成熟した思考は更なる繁栄を望んだ。かくしてクウェンディは別氏族との交流を深め、以後、別氏族との婚姻は禁忌ではなくなった。むしろ血を混ぜることを尊ぶ風潮すら出たのである。

 その初めての別氏族婚とされるフィンウェだが、かれは自身が初めての別氏族婚ではないことを知っていた。本当の意味で初めての別氏族婚はアマンへ向かう大いなる旅の途中に、他のどこでもなく、また他の誰の手でもなくフィンウェ自身の手によって、ノルドールの宿営地のフィンウェの天幕にて執り行われたのであったからである。

 娶わせたのはフィンウェであり、また、イングウェでありエルウェであった。
 かれらはヴァンヤとテレリだったが、かれらの愛を助け、かれらの子孫の運命に深く関わったのは常にノルドであった。かれらのことは、かのフェアノールの息子、伶人マグロールの作ったメルリンダレ、すなわち愛の歌に詳しいが、ここでは物語のみを語ることとする。