暗闇が訪れ、エイセルロスがフォルメノスからマエズロスを連れて行くこの時点以降の物語はまとまった形では見つかっていない。断片的な走り書きが幾つか見えるだけである。
エイセルロスは審判の輪でのマエズロスの報告を見届けた後、主君であるイングウェから強く引き止められる。イングウェの予見は彼の未来に不吉なものを見ていたからである。
イングウェは言った。「そなたの優しさを愛しているが、それこそが心配なのだ」
「わたしはただ臆病なだけ、どちらも取れないだけです」エイセルロスはむしろ頑固に続けた。「わたしの船は暗い海を征くのです。それが見えました」
「その船にそなたは乗っているのか」
「わかりません。わたしには見えませんでした」
「わたしには見えた。そなたの船にそなたは乗っていない」イングウェは厳然と予見を告げた。しかしローメンディルは夢に怯える子のように、ただ頭を振った。
「行かなければ。いかなければ…!」
そして身を翻し、かれは夜の中に駆け去った。
しかし暗闇の中でエイセルロスの出航は難しかった。また、オルウェも彼を強く引き止めたことにより、エイセルロスはアルクウァロンデの悲劇に居合わせ、混乱の最中、ヴァンヤールの中でただひとり命を落とすこととなる。彼を殺したのがマエズロスであるか否かは定かではないが、死の間際、エイセルロスはマエズロスに指輪を――“フィンウェの祝福”を託す。
「ああ!二つの木よりも中つ国の星明りを、薄明を、わたしは愛している!」エイセルロスがはっきりとした声で叫んだ。そしてかつての木々のざわめきのように、波の音が共に言った。
「フィリエル、フィリエル!」
ローメンディルはかれの船に倒れ、船は戦の響きを厭うように波間へすべり出た。
エイセルロスの船は彼の遺体を乗せたまま、ノルドールの手にもテレリの手にも捕まえられなかったが、イングウェがやって来ると主君の下へやって来た。エイセルロスはテレリたちと共に弔われた。この時すでにイングウェの元にはエイセルロスがマンドスでどうなったか、が予見として訪れていたようである。
とはいえイングウェはそれを誰にも明かさなかった。
彼の元にローメンディルが戻るまで、多くの時を有するのがわかっていたからである。