次のふたりの逢瀬はフィンウェ王の天幕の中であった。その日、エイセルロスの心は急き、想いはナン・エルモスの森の向こうへ飛んでいた。かれはフィリエルに言うべきことがあり、かの女に一刻でも早く逢いたかった。ところがフィンウェはエイセルロスを放そうとせず、急く理由をあれこれと尋ねた。
エイセルロスは以前フィリエルと逢った時に、ひとつの予見をした。それは遠い未来の情景であった。かれとフィンウェ王が、同じ悲しみについて語っているのだった。かれにとってそれはフィリエルのことに由来するように感じられた。フィンウェ王もそのことを知っているのだった。
かれには、フィンウェ王も、かれとフィリエルのことを知っておいてもらうのが良いように思われた。
それで、エイセルロスはついに白状した。フィンウェはかれの告白を聞き終えると言った。
「それでは、かの女が身篭っているとしたら、そなたはどうするか」
エイセルロスは即座に答えた。
「結婚を申し込みます。そしてわたしはかの女が承諾してくれるものと信じて疑いません。わたしたちは成年前で、氏族も違いますが、それらすべてを忘れるほどに、互いが離れがたいのを知りました。わたしたちはひとつなのです。わたしはそのようにかの女を恋うています。それに、」
エイセルロスは言葉を切り、背後の幕をじっと見つめた。
「それに、フィリエル。わたしはあなたが身篭ったことを知っていました」
フィンウェはかれの注視する幕を上げた。すると、はたしてそこにフィリエルはいた。フィンウェがそこにかの女を留め置いたのであった。
エイセルロスはひたむきな瞳でフィリエルを見つめ、その手をとった。フィリエルも同じように深い瞳でかれを見つめ返した。
フィンウェはそれを見届けて言った。
「わたしがそなたたちを叱らねばならぬのは、そなたたちが成年前に事実として結婚をしたということだけだな」
フィンウェは重々しく続けた。
「恋を侮ってはいけない。愛の情熱を嘲ってはいけない。我らクウェンディは愛によってしか結ばれぬ。それを軽んじてはいけない。だからわたしは、そなたたちを祝福しよう。成年前にして父と母である者、互いの中に世界を見つけた者、愛によって全きひとつである者たちよ。しかし、このことはイングウェ殿にもエルウェ殿にも言えぬ。ふたりはこの縁をあまり喜ばぬだろうから。だがわたしはこの縁を尊び、この縁を祝福しよう」
そしてかれは、エイセルロスとフィリエルの手を重ね合わせた。
「汝らの結婚は、我ノルドのフィンウェが誓いを見届け、祝すものである。時の過ぎるうちにはこの縁が露れることもあろう。願わくはその時が祝福に満ちたものであらんことを」
かくして、初めての別氏族の婚姻は成ったのであった。