テレリ族の遅延のこと

 さて、エルダールの先頭を行くヴァンヤール族はついに、最西端の海岸へ辿りついた。ノルドール族は広大な森を南西へと移動しており、テレリ族もまた、ほとんどがゲリオン川を越え、レギオンの森の東端に近くやって来ていた。
エイセルロスとフィリエルがひっそりと森で結ばれた頃、ヴァンヤール族はウルモと言葉を交わし、海への望みをかきたてられた。
 やがてノルドール族も続々と海岸へ辿りつき、揃って海への望みを抱いた。だがフィンウェは未だ再びの海を臨んではいなかった。かれはテレリ族の歩みを案じて、レギオンの森の端を離れようとしなかったのである。けれどかれの民のほとんどはすでに海岸へ辿りついており、主君の到来を待ちわびていた。イングウェはそれを伝えさせに、またテレリ族に道を見つけさせるようにとエイセルロスを遣わした。

 フィンウェのもとで、かれが役目を果たしている時、エルウェの先触れが現れた。フィリエルであった。フィンウェはエイセルロスに、テレリ族への役目はここで果たせるだろうと告げ、ふたりを自由に過ごさせた。

 エイセルロスとフィリエルは、存分にふたりの時間を楽しんだ。なんとなれば、かれらは非常に若く、深い愛に結ばれており、にも関わらず共に在れる時は、今はまだあまりに短すぎるように感じられたからである。
 だが、そのようなふたりの感覚でも望外の喜びとしては長い時間が経ち、ふたりは改めて自らの役目を思い出した。ところが、フィンウェの天幕に戻っても、来るには充分な時間が経っていたにも関わらずエルウェは未だ訪れていなかった。エイセルロスは、エルウェを捜しにテレリ族の宿営地まで行くことを決意した。フィリエルもそれに従った。

 しかし、すでに語ったようにその頃エルウェはナン・エルモスの森でメリアンと運命の出会いを果たしていたのであり、当然ながらテレリ族の宿営地を離れた後であった。かれの失踪がはっきりすると、テレリ族すべてがかれを探し、また、フィンウェと共にあったノルドール族も捜索に加わった。かなりの時を費やしたがエルウェの行方は杳として知れなかった。

 エイセルロスは正しく伝令として駆け回っていたが、最後に、海岸から大きな報せを運んできた。ウルモの運んできた島、後にトル・エレスセアすなわち離れ島と呼ばれる島がバラール湾に繋留された、と。そしてノルドール族は、主君のいないことに不安を感じている、と。
 フィンウェは、叶うことならば留まって捜索を続けたかったのだが、かれの民の懇願に負け、かれに従って残っていたノルドール族と共に海岸へ向かった。

 島の繋留の話が加わり、テレリ族は混乱の極みにあった。オルウェを主として戴き、海岸の少しでも近くへとシリオンの瀑布付近までゆく者もあった。レギオンの森からネルドレスの森へと、捜索を続ける者もあった。だが海岸まで辿りつく者、行こうとする者はひとりとしていなかった。皆、エルウェを完全に見捨てることは出来なかったのである。