私は反対だ――、とイングウェは言い、少し笑った。
「そういえば、貴方に反対するのは初めてかもしれない。私と意見を対立させるのはいつもエルウェであったし」
イングウェの紫の瞳は、ちょうど彼の養い子のように宙を漂い、ただ遠くへ彷徨っていくようだった。
フィンウェは小さく息をつき、うつむいて、イングウェの長い金髪を引っ張った。
「……責めないのか」
「フィンウェ――」
「責めないのだね。私は、あなたが責めるのだと思ったのに」
イングウェはフィンウェの黒髪をそっと撫ぜた。
「なぜ?」
フィンウェはすいと目を上げた。
「だって、あなたは見通したはずだから」
ヴァンヤールにしても珍しい深い紫の瞳を見すえて、フィンウェは重ねた。
「――私が何を考えたのか――何を願っているのか――…」
「そう、だからこそ」
イングウェはぼんやり呟き、目を閉じた。
「私は貴方を責めるつもりはない」
感情の抜け落ちたようなただ静かな声でイングウェは言い切った。
フィンウェはまたうつむいた。
「フィンウェ」
イングウェの声は囁くように小さくなる。だというのに耳を貫き心に食いこむ。
「貴方が、わからないはずがないからだ」
フィンウェは震える手で耳を塞いだ。
イングウェは微笑んでいるだろうと彼は思った。そしてまた、声が、落ちてくる。
「フィンウェ、貴方はミーリエルを責められぬだろう?」
ああこの方は、やはり、わかってしまったのだ。
「責めてほしかったのに」
フィンウェは言う。
悲しみを知るふたりは、悲しみの予感をもまた見ている。ひとりひとりで。
イングウェはゆっくりと告げた。
「そなたらは幸せになるだろう!たとえばそれが罪であったとしても、断罪は私の役目ではない。私の非難は貴方に必要ない」
のろのろと顔を上げ、フィンウェはイングウェを見つめる。
あまりに多くを見通すヴァンヤールの王を。
「フィンウェ、私は反対だ。この結婚には反対だ」
「ええ、でも――」
フィンウェはぐたりと微笑んだ。
「イングウェ、わかっているのだけれど!」