それは最後の船が来るというので、貴家当主総出で迎えたいかもね、そうだよね、ていうか迎えるべきじゃない?という実に軽いノリの会話をしたノルドの王フィンウェとテレリの王エルウェから来た話でした。
もちろんヴァンヤの王のイングウェに異存はありませんでした。
イングウェはさっそく長上王マンウェを口説きおとし、(マンウェはヒマだったのかあっさりと快諾してくれました)期間限定・なんちゃって蘇りを決行するべく“タナクイ”という場所を確保し、一方マンドスでもいかなる手を使ったのかナーモの承諾を取り付け、いざ3人はタナクイに集まって、会議のようなものをしているわけです。
ようなもの、とつくのは、この3人が集まると今さら話し合いなんぞするわけがなく、思い出話やら世間話やら何やらで、楽しいお茶会のようなものになってしまっているからです。
そんなお茶会に、3人からほぼ何もかも押し付けられたマンドスの案内人がやってきました。
「イングウェさまー、困りました」
3人はくるりん、とエイセルロスの方を向きました。
「どうした?」
エイセルロスも今さら王3人に一気に見られても大してビビりはしません。
彼ほどたくさんのヴァラ・マイア・エルダールと会話した者は、未だかつておりません。そんなわけで、彼は非常に目が肥えていました。ちょっとやそっとの美貌ではビクともしません。
王たちは、厳密に言わないでもちょっとやそっとの美貌ではなく、ものすごい美貌なのですが、エイセルロスはなんだかんだとこの3人にしょっちゅう呼びつけられていたので、見慣れていました。
「24家で迎えるって話ですよね?いくら数えても23家しかないんです…」
しかし。
こう言った瞬間の王たちの反応にはちょっとビビりました。
だって、3人とも唖然茫然愕然といった感じでエイセルロスを見てきたのですから。
「………、…あのー…?」
呼びかけたエイセルロスの目の前で、フィンウェはふぅ…と実にアンニュイな溜息をつき、エルウェは力なく笑ってイングウェを見ました。
「……わかった。きっと私の育て方が悪かったのだろう」
イングウェが少し悲しげに言うと、
「んー…、ちょっと怠慢、かな」
フィンウェが賛同し、
「わたしも人のことは言えないだろうが…やっぱりこれはどうかと思うぞ」
エルウェも頷きました。
そしてまた3人はくるりん、とエイセルロスの方を向きました。
「あー…」
イングウェがとても言いにくそうに口を開きました。
「エイセルロス、王、皇、公、侯、各何家あるか言ってみなさい」
主であり養い親の言葉です。エイセルロスは即座に答えはじめました。
「えーと、王家が3家」
エルウェがこっくり頷きます。
「侯家は12家」
フィンウェも微笑して頷きます。
「皇家は4家、公家も――あ」
エイセルロスは、自分が「も」と言った瞬間に、イングウェがぴくりと眉をひそめたのに気がつきませんでした。
「あの、煌家は、公家ですよね?」
「そうだよ」
フィンウェがすぐに返します。
「では4家。えー、3+12+4+4=23……ですよね?」
そう言ったエイセルロスの目の前で、3人は深い深い溜息をつきました。
「ええと…ち、違うんでしょうか…」
おろおろと聞き返すエイセルロスに、フィンウェはにっこりと微笑んで言いました。
「ちょっとこっちに来て、一覧表を作ってごらん」
しばらくして書きあがった一覧表を、3人は指差しました。
煌家と銀森家の間を、びし!と。
「ここが、足りない」
イングウェが半ば陰鬱に指摘すると、
「重要かつ外せない一家がな」
からかうような声でエルウェが続けます。
さらにフィンウェが楽しそうにエイセルロスに尋ねました。
「各家はどんな家がなったんだい?教えてくれないかな」
「はい、それは、クウェンディ長の直系が王家3家、その王家の傍系を公家、公家のうち王位についた家が皇家、侯家はこちらへ渡ってこられたクウィヴィエーネンの2世代目の方々の家です」
「ふぅん、それで何故忘れるかな」
フィンウェは軽く首をかしげ、タタの直系の子は誰かな?と聞いた。
「フィンアルニスさまです」
答えたエイセルロスに、今度はエルウェが、じゃあエネルは?と聞いた。
「エルヴァさま…」
すると次にイングウェが、ではイミンは、と聞いた。
「イングヴァールさまとインダールです」
答えた瞬間、3人の王はまた唖然茫然愕然とした目を向けてきました。
………僕なにかマズいこと言っただろうか、とエイセルロスはまたかなりビビりました。
「……すごく、自然に言った、ね…。イングウェ、これはあながち貴方のせいではないかもしれない」
「いやおそらく、自由にさせすぎた私の責任だろうが…」
「育て方というよりも、最初が悪かったんだろう、きっと。そなたがそんなに気に病んでもムダだ」
なんだかよくわからない感想を述べたのち、まるで怒っているような声で、イングウェは問いました。
「エイセルロス、インダールの息子は、誰だ?」
エイセルロスは目をぱちくりさせました。
「は…?私…ですけど…」
彼の目の前で、フィンウェがやれやれと言いたげに笑って言いました。
「そういうことだよ、薄明公」
ついでエルウェが恭しく言いました。
「薄明家のエイセルロス殿」
最後にイングウェが、あきれたように言いました。
「そこまで自覚がないとは思っていなかったぞ…ほら、そなたで24家だ。二度と忘れるなよ」