指先

 レイシアンを初めて聞いた時の父の反応は、号泣、の一言に尽きた。
 べそべそ泣きながら頭をよしよし撫でられた時も曰わく言い難いむずがゆいような気持ちになったものだが、今日のこれは、何というか、何も言えない。

「君のその可愛い牙がね、可愛いだけで済まなかったのが誇らしくもあり、自分が不甲斐なくもあり、」
 淡紫の真摯な瞳が甘やかにゆるんで、父は、微笑み、頭を深く垂れた。
「がんばったね、フィンロド」
 よく生きた。
 そっと両手を取られ、指先に唇がふれた。

 叫びだしたいような気もする。
 私の顔は今、すごく赤いに違いない。
(【面映ゆい】だ、これ)
 とりあえず名前を付けてみたが、上った熱はしばらく治まりそうになかった。

「マエズロス、私、父上に口説かれたような気がする」
「(あーそれで顔まっかなのか)……幼なじみとしての意見を言わせて頂くなら」
「うん」
「『天の下の天然発言の破壊力ヤバい』と……今度出会い頭に殴っとこうか?」
「え。あの。何て?」
「『この天然キザ男!』って」
「……………殴らないであげて。それよりどうしよう、しばらく父上の顔見れない」
「また顔赤くなってるぞ」
「うー」
「まあ、その。アレは天然キザと親バカが溢れかえってそういう……その、なんだ、表現になってるだけだから。考えすぎるな」
「ううー」
「(あいつ末っ子だからなぁ)」

「どうしよう私フィンロドに嫌われたかもしんない最近ちゃんと目合わせてくれないしそもそもお喋りに来てくれる回数が減ったっていうかあんまり会わないしかといって何処かに出かけてるわけでもないしアマリエに聞いても『照れてるだけですよ?』って言われるし照れる何かした覚えないしどうしよう嫌われてたらマンドスに引きこもりたい」
「息の長さ披露してないで仕事しろ」
「酷い!」
「照れる心当たりないって、最後に話したの何?」
(かくかくしかじか)
「……あのさ、君がおじいさまから誉められたら?」
「転げ回るね!」
「なんで」
「嬉しはずかし?」
「今、それだよ、フィンロド」
「えっ」
「気づけよ末っ子」
「ええっ」

「『父上大好き』って言われた!うちのこ可愛い超可愛い」
「うるさい黙れ殴らないでやるから仕事しろ」
「そういえば今回マエズロスにぶたれなかった」
「フィンロドに『殴らないであげて』って言われたんだよ仕事しろ」
「………う」
「う?」
「うちのこ優しいッ」
「はいはい残りの優しい子たちにも会いたいよな仕事しろ末っ子」
「末っ子だけどなんで末っ子?」
「長子の苦労は末っ子の百倍くらいだと知れ」
「誉められると百倍嬉しい?」
「そういうこと平気で言うな天然キザ男」

~嫁と婿について~

「君の子に“嫁”を使うのは間違ってる筈なんだけど納得すんのなんでだろうな」
「え、ちょ何、私なんかした?」
「今日は真面目にやってると思ったけど身に覚えあるの」
「ないです真面目にやりました」
「それは良かった。でさ、頑固さん(フィンゴルフィン)は、こどもたち婿にやらん!って言ってたんだよ」
「うん…?」
「で君はお嫁にあげないよって言うだろ」
「言うね!」
「……おかしいだろ?」
「……あれ?」

~火精家が金髪家にちょっかい()を出してた件について~

「君の弟たちの話すると、うちのこ物凄く『あ~…』て顔するんだけど何したの?」
「あ~…」
「それだよそういう顔!」
「ちょっかい?」
「ちょっかい…?」
「いや、うん。………仲良くしてたよ」
「待て待てすっごい含みあるだろちょっと待て!?うちのこに何したの!?」

・フィンロドはクルフィンに這い寄られてた
・オロドレスはケレゴルムに撫でもふられてた
・アングロドはカランシアと喧嘩してた
・アイグノールは双子に何か問いつめられてた
・ガラドリエルはマグロールと果てなきおしゃべりに突入してた

「真っ黒だ!」
「何がだよ」
「なんかもう…ひどい!」
「一部は言い訳しようが無い気がするけど」
「言い訳してよ!?」
「ちょっと落ち着け。……そうだ仕事しよう」
「……後でじっくり聞くからね」
「知ってる以上のことは何も?」
「君がそういう顔してる時は何か隠してるんだ絶対そうだ」
「はいはい」
「フィンゴンに言いつけてやる」
「はいはい」