【エルウェ】
「何を見てる」
「ん?イシル」
「そんなもの見てないでわたしを見ろ」
「そんなもの、とはまた凄い言い草だね。テルペリオンの最後の花なのに」
「あの銀の木の最後のよすがかと思うとそれなりに愛しいが、そなたがここにいるのにわたしを見ない原因になるかと思うと迷惑きわまりない」
「――…エルウェ」
「なんだ」
「月は、嫌い?」
「好きとは言い切れない」
「そう…。似ているのに」
「似ている?……わたしはあんなに気まぐれではないぞ」
「そうかな…良く、似ている。姿も心の在り方も」
「やめてくれ。そなたまで、“月に貴方を想って…”とか何とか言い出すのか」
「偲ばれたの?中つ国で?」
「面と向かって言われたわけではないがな」
「はは、偲ぶ気持ちはよく分かるよ。会えないならなおさら、色々と面影を求めるものだし」
「そなたも、そうか――?」
「……いや…。あれを見て懐かしむことはないよ。だって、偲ぶ前に君にまたあえた」
「…………………ということは、再会がもう少し遅かったなら偲んでいたと…」
「さあ、どうだろう?でも今は君がここにいるんだからいいよね」
「この先またいなくなったら…」
「そんなことはないから考えない。いるでしょ、私のそばに」
「………確かに、いるな」
「それじゃ、たまには私が月を眺めるのも許してほしいね」
「………いやそれなら月を見てもわたしのことを考えている方が…」
「ああもう、わがままエルウェ!」
キーワード【月】
「良く似ている。その姿と心の在り方が。でも、私はあれを見て懐かしんだりしない。偲ぶ前に君にまたあえた。今は君がここにいる。私のそばに」