慟哭

 苦い響きの親友の声が聴こえて、シンゴルは暗い物思いから目覚めるように正気づいた。
 逆立つように波打つ胸が痛い。心臓の真上に手を置いて、震える息をゆっくりと吐く。
 「聴いた」声はイングウェのものだった。とすれば己はおそらく、彼のもとに何かを――きっと姿を、見せたのだろう。イングウェは「視る」。己が「聴く」のと同じように。

 彼の言葉はエルウェの……エル・シンゴルの心臓を貫いた。正気づけた――胸の痛みを、無意識の声として認識できるくらいには。

 (ぼくがみつけたのに)
 (ぼくがいたのに!……)

 エルウェは泣いている――あの日あの時からそのまま時を凍らせていたエルウェ、シンゴルであるということを何一つ知らぬエルウェ、半ば狂ったように恋を恋うて、一途と言うには激しすぎる熱情をひたむきに注いでいたエルウェが、泣いている。

 彼は恋人を失った――否、とうに失っていたのだ。シンゴルは知っていた。知っていたことを忘れていた。
 思いだした今、シンゴルは我が身の苦しみの真因を、あれほどの壮麗を極めた王国にあってなお満たされぬ思いでいた理由を理解した。
 メリアンを愛さなかったわけではない。ルシアンを愛しく思わなかったわけではない。幸せでなかったとは言わない。
 ただ、幼い、唯一の至上の恋を忘れ、忘れたことすら忘れ、永遠に失った。
 シンゴルはエルウェであるが、エルウェはシンゴルではない。だからこそエルウェは泣くしかないのだった。

 (みつけたのに)
 (そばにいたのに)

 泣き声をあげていながら、苦い苦い親友の声が耳に蘇る。その言葉はエルウェもわかっている。
 胸の痛みを抑えながら、エルウェ・シンゴルロは薄りと笑った。涙は出なかった。