まだ若いマルローンの樹が、森にすっかり溶け込んで枝を広げている。
金の葉と黄の花がはらりはらり降りしきる季節にスランドゥイルがやって来て、ちょうどはじめに植えた一群の樹々をみて笑った。
「ケレボルン、ぬし、愛されすぎじゃ」
「わたし?」
「これを見てそう言えるぬしの、……いやそこが良いのだろうな、奥方は」
ケレボルンは心底不思議そうな顔でマルローンの林を見た。
天蓋は黄金の葉、今は花の季節で、黄色い花がひそやかにはらはらと降ってくる。若葉はやわらかな黄金に霞み、散り敷いた葉で地面も黄金に染まる。
黄金の冠を戴く樹々。
これでどうして?問えば、スランドゥイルはあだっぽい眼差しでケレボルンを見、林を見、唐突に言った。
「ローリエンには銀の柳があると言うが」
「……ん」
彼はすっと手をかざし、降りしきる黄の花びらを受け止める。
「花咲くローリエン――ロスロリエン。なるほど」
そのまま歩み、マルローンの一本に触れた。
「この幹は銀色だとは思わぬか?」
灰色のなめらかな幹はまっすぐに伸び、身長をはるかに抜いて聳えている。
「それに、この樹はこんなに大きくなるものではないわ」
「え」
「黄金の花冠。銀の柱。ぬしら夫婦の様であるが、さて、殿はどうお考えかな」
困ったように慌てるケレボルンにスランドゥイルは喉を鳴らすように笑って言葉で胸をつつく。
「愛されておる、の」
銀の木の名持つ殿は、たいそう慎ましく赤面した。