ナーモ

「“わたしはそなたらがあまり好きではない”ですって?」

 上気した頬と潤んだ目とかなり危うい足元――完全に「酔ってます」という看板を掲げているような姿で、フィンウェはそう聞き返した。

「嘘つき」

 ぺし、とノルドにしては小柄な腕で叩かれる。
 少し離れた所でこちらを気にしていたイングウェがまさに「びっくり」という表情をしていたのを目の端に留めつつ、ナーモはよろけて倒れかかってきたフィンウェを抱きとめた。

「嘘つき嘘つき」

 なおもぺしぺしとフィンウェは叩いてくる。

「……あのな、フィンウェ…」

 力の入っていない手を掴んで捕らえると、フィンウェは、きっ、と顔をあげた。

「だって、そうでしょう。ナーモさまが好きじゃないのは私だけでしょう」
「……はぁ?」
「なのにまとめて“好きじゃない”なんてひどいじゃないですか。ほんとーにいい子たちなのに」
「あー…」

 うるうるした目で訴えられてはナーモの分が悪い。泣く子には勝てない。

「わかった、嫌いではないから」
「ほんとーですかぁ?」

 胸元にべったり張りついたままフィンウェはなおも尋問する。
「本当だとも」

 ナーモは真面目な顔で答えつつ、かなり必死に助けを求めて視線をさまよわせた。と、

「フィンウェ」

さやさやとすべるようにイングウェが近づいてきて、

「飲みすぎだ」

ばりっとフィンウェをナーモから引き剥がす。

「イングウェぇ?」
「ほら立って。貴方は少し風にあたって酔いを醒ました方がいい」
「酔ってないよ」
「酔ってないと主張する奴は大抵酔っている」

 ぴしゃりと言うと、イングウェはフィンウェの背中をぽんぽんと撫ぜた。
 ナーモを見て、溜息混じりに微笑む。

「ご迷惑をおかけしました、ナーモさま」
「……いや、いいが」
「でも、ナーモさまもお悪いです」
「何?」

 イングウェは至極マジメに言った。

「“好きではない”ではなく、“苦手”と言うのです。こういうのは」

 そのまま、しがみついて寝息をたてているフィンウェを軽々と持ち上げると、イングウェは礼をして、では――と行きかけた。

「……イングウェ」
「何でしょうか」
「やはり、…わたしは“そなたら”があまり好きではない」

全エルダールを束ねる王はゆっくりと唇の端をつりあげた。

「それは正しい使い方ですね」