波の音に心を揺られながらいつまでだってぼうっとしているのはエアルウェンには良くあることで、口を利いても利かなくてもフィナルフィンは間違いなくそれに最後まで付き合う。
……のだが、今日はウルモの唄よりもイルモの恵みが彼に訪れたようだった。
岩の上では眠りにくいだろうに、ごつごつとした岩肌に凭れかかって、脚は軽く曲げて、海風にさらさらと髪を遊ばせて。
つん、と頬をつついてみても、わずかに開いていた唇をむっとつぐんだだけで、目覚める気配は少しもない。
傍らに同じようによりかかって、エアルウェンはまたぼうっとし始めた。潮騒はすぐに心に忍び入り満たし、揺らぎを紡ぐ。
「……エアルウェン…」
まぎれこんだ声に傍らを見やると、海は耳からも心からも――ふと消えた。
「いつ…、………て、くださいますか…」
エアルウェンはフィナルフィンを見つめたまま放心していた。
波の音が聞こえる。恋人はまだ眠っている。
エアルウェンは小さく口をとがらせる。
(まだ、申し込んでくださってもいないのに)
波は穏やかな唄を奏でる。エアルウェンはふふっと笑うと、フィナルフィンの手に頬を寄せてみる。
「ええ、でも、フィナルフィン――すぐにでも」
目を閉じる。幸せだった。