「どうしてよ!」
泣きながらしがみついてきた再従妹の姫を抱きとめて、その華奢な腕で何度も胸を叩かれながら、ケレブリンボールは茫然としていた。
フィンドゥイラスは泣いている。伯父が死んだと、ナルゴスロンドの王、フィンロド・フェラグンドが彼自身の誓言を果たし——そしてこの都に戻って来ることはもう二度とないのだと、その悲しみと。
フィンロドをそう追い込んだのは一体誰なのか、その答えを得ての——怒りと。
いや、やはり悲しみなのだろうか。
ケレブリンボールは奇妙な気持ちで黙っている。
感情表現が素直だと、良く言われた。ささいなことですぐ笑うし、痛かったら泣いた。ふくれっ面を隠したこともないし、ぼうっとしている時は大体楽しそうに見えるらしい。
なのに、優しい従伯父の死の報せに涙も出ないのは、どうしてなのだろう。
「どうしてなの、ケレブリンボール、どうして?」
繰り返すフィンドゥイラスの拳を取った。
握られた指を撫でて、乾いた瞳で、ケレブリンボールは言った。
「ごめんなさい」
燃えるような言葉を落とした。
「ごめん。ごめんね、ごめん…」
泣いている方もそうでない方も、この奇妙な痛みを分かち合えるのがお互いだけだと知っていた。
フィンドゥイラスの伯父の死の元凶は、ケレブリンボールの父の邪悪な企みなのだ。
言葉は何でも良かった。
愛は確かにあったのに、と、言えるのもお互いだけだった。