夜ごと夜ごと私の部屋を訪なう従弟が何をしたがっているのか、言い表すのは難しい。
たぶん、誰もが思っているようなことじゃ…、ない。
ああ、そんな顔をしないで。オロドレス。本当に何でもないんだったら。
そうだね。最近は、話をしてるよ。たぶん。最初は黙っていたけれど。
黙って、みていた。じいっとね。
でも彼が見たいのは、本当は私じゃあないんだ。
それじゃ、今は何をしているか。
彼がこう、部屋に来るだろう。そして言う。
「フェラグンド。散歩をしよう」
勿論、私が外に出ていないのは知っているだろう。彼の言う散歩は外に行くようなものじゃない。
ただ心を、放つ。
森へ行こう。
萌え出づるさみどりの若葉から、つややかな光の下の濃い緑。ものみな染まる褪色の時期。氷る霧の立ち込める朝。
道を歩めば空が歌う。風のささやきと生命の気配。
たちのぼる土の香り、降る星の甘さ。
彼はうつくしいものを語る。
そうして森へ行き山へ行き、海を見て河を見て、灯火の下の笑い声を聞いて、月明かりの秘めごとをうかがって。
………話をしてるよ。
(自らの髪をくるりと手巻いた兄の瑠璃の瞳があまりにうつくしいので弟は何も言えなくなる)
(奇妙な夜歩きにはとうてい賛同などできなかったのだが)