水の王は姿が結べない

 ウルモの姿かたちの定まらなさといったらない。
 そもそもアルダに入るにあたり、イルーヴァタールの子らの姿を真似よう、とした時にウルモは大いに困惑した。あんまりちゃんと見ていなかった、というのがその理由である。彼は子らの声と生み出す音楽についてはよくわかっていたが、姿の方は曖昧だった。
 困惑し、傍にいた者の姿を真似たので、そこにマンウェの姿かたちがもうひとつ現れた。
「みずいろだ」
「みずいろね」
長上王夫妻は呑気に言い、メルコールは「やめろぉぉぉオ!!」と絶叫した。
 作為なく姿を結ぶと、マンウェとメルコールはかなり似た姿になる。もちろん色は違ったが。

 姿かたちを結ぶ時、色は自然に決まるのだった。
 ウルモのは言うなればみずいろだ。青の揺らぐような薄色から濃色までであり、光のちらちらした明色から暗色でもあった。
 みずいろと称されたのは嬉しいが、さて姿かたちをどうしようとウルモは思った。大不評だから変えねばなるまい。
「何も考えずに結んでごらんよ」
 とマンウェは言うが、その何も考えないがウルモには難しい。
 ウルモの意識は広大無辺に拡散している。水に依り、水のひとしずくにさえ欠片を宿す。
 まずは無、とウルモは考えた。意識を解くと姿かたちもほどけた。せめて物質にはなるべきだろうか。
 かたち、かたち……、ウルモはとにかく物質になる。やはりそうなると水になる。
「みずたまり…」
 マンウェが引いた。ヴァルダの視線がつめたい。
 これじゃ触れないとマンウェが口をとんがらせているので、ウルモはもう少し粘性を増してみる。厚みをつける。かたちを作る。不定形流動体。
「ウルモ、よくのびるねえ」
 マンウェが不定形流動体のすきとおった青いところを掴んで引っ張ったので、ウルモはその腕に体を絡めてくるんでみた。マンウェは笑った。
「一緒に考えようよ」
「これはだめか?」
「うーん」
 渋るような響きだったのでだめなのはわかった。
「アウレに」
 頼もうか、と言いかけたら怖い顔でそれはだめ!と怒られた。
 不定形流動体はびゅるびゅると腕から退いて丸まる。
 次にそこにたちあがったのはマンウェとは似ていない姿かたちだったが、とにかくどうにも雑だった。
「こわい」
「さっきのより、」
「さっきの方がまし!」
 あやしい人型はすぐに不定形流動体になった。
「いいよ、それで」
 全然良くないという顔でマンウェが言うので、ウルモはしょげていますというふうにべろりと広がってみせた。

 水の王はそれからかなりの間、よくわからない不定形流動体のままだった。