ひとりの茶会

 相手の来ないお茶会を開くのはノルド王の趣味のようなものだった。
 本当の相手ではないエルフやマイアやヴァラがよくその向かいの席に座るのだったが、フィンウェは底の知れない微笑みで、相手を迎えて喋るのだという。

 ニエンナは一度だけ、お茶会に訪れたことがある。
 ころころと、宝玉の触れあうような軽やかな笑い声をたてて、茶会の主は笑っていた。
 白い東屋で、塗れる花に囲まれて、フィンウェは泣いているように笑っていた。
 
 ニエンナが姿を見せると、フィンウェは卓の上から銀色の柳の枝を手に取って、
 ひどいひとですよね、
 と囁いた。

 銀の柳はフィンウェにとっては涙のようなものなのだ。
 ニエンナは柳を持ってきたのが誰か知っていた。知っているような気がした。
 けれどノルド王はそれ以上何も言わず、ニエンナも問うことはなく、彼の涙は花のまま風に揺れていた。