オロメ

 ――かくも、強きものたちよ。
 (わたしたちがメルコールに手をこまねく間に闇の中で彼らは星を仰いで生きていた)
 ――かくも、楽しきものたちよ。
 (彼らの問いは思いもよらぬ壮大なそして些細な好奇心)
 ――かくも、面白きものたちよ。
 (彼らの目線は地を這うが心は高く空に舞う)
 ――かくも、素晴らしきものたちよ。
 (彼らの歌は揺らぎ響き世界を称えて広がりゆく)
 ――かくも、美しきものたちよ。
 (エルの長子、星の民)

 座ったナハールに寄りかかって眼を閉じていたオロメは、見事に鮮やかな青紫の瞳を開いて呟いた。
「……む、おかしいな。何かどうにもしっくり来ない」
「なにがー?」
 耳元で言われたのんびりした声に仰天する。
 オロメよりもナハールにすりすりしながら、もっともっとくつろいで笑っているのは長上王マンウェだった。
「何、悩んでるのさ」
「悩んでいたというか、ちょっと気持ち悪いというか」
「ふぅん」
 マンウェはちょいちょいとオロメを招いて、秘密のように言った。
「君のご執心のエルダールが?」
「ご執心…。きみだって多分、好きになると思うぞ」
「ふぅん。でもまだ会ってないし――」
「なんというか、そう、かくも――」
 オロメは黙った。マンウェは、ああ、と言った。
「そこなんだ」
「…そう」
「呼びかけに悩んでたんだ?」
「ああ、…そうか。わたしは呼びかけたかったのか…」
「そうみたいだね」
 マンウェはぷくく、と笑うと、ナハールにじゃれながら言った。
「答えは出てるんじゃないの。ねー、ナハール?」
「?」
 はて、と首をかしげたオロメに、マンウェは近寄るとぎゅっと抱きついた。
「大好きっ!」
「……ああ、……?」
「―――ってことでしょ?」
 オロメは首をかしげつつも、まあそんなものか、と頷いた。

 さて答えはオロメの悩みとは裏腹に、するりと口から滑り出た。
 あえかな星の光の下の闇、若い種族の輝きにうっとりと笑い、オロメはこう言ったのだった。
 ――かくも愛しきものたちよ。