「あなた方を『ギル=ガラドの遺臣』と呼んで良いだろうか」
エルロンドはそう尋ねた。第三紀の始まりの頃のことだ。
ギル=ガラドは持たざる王だった。もしくは預かる王だった。彼には自分のものと呼んだものがあまりに少なく、ほとんど何もかもをエルロンドに残していってしまった。
何もかもを残していったのに、幾つかの重荷は片づけていった。中でも『上級王』の地位とそこに付随するしがらみの多くは、始末をつけ、終わりにしていった。
彼らは少しさざめいて、それから見事な編み髪の小柄なひとりを前に押し出した。押し出された彼のことは知っている。エレストール。
「後の書でそう呼ばれることはあるでしょうが、今のあなたに呼ばれるのは嫌ですね」
冬の朝のような声音で言ったエレストールは、さらに続けた。
「私たちは最初からギル=ガラドに仕えていたわけではありません。ただのひとりもです。それぞれの歩みがあってあの『孤児たちの宮廷』に集うことになりました」
そこでエレストールは、挑発的に笑った。
「ですからあなた次第で裂け谷に集うこともあり得ることでしょう。その機会を逃すのですか。ペレゼル」
エルロンドは胸苦しいような温かさを感じて微笑んだ。きっと笑みは不格好だったことだろう。
「それではエレストール、あなたから教えて貰いたい」
いつも。手が届かなくなってから悔いることがある。時の隔てをエルロンドは忘れがちなのだ。
「何を知りたいのですか」
「あなたたちの、それぞれの道を知りたい」
もっと話しておけば良かったと悔いている。遠い昔に別れた片割れとも、ずっと長い時間を共に過ごしたはずのギル=ガラドにも。
エレストールは、今度は雪解けのように微笑んだ。
「では始めましょう。私たちのそれぞれの第一歩を」