(酒の席での話である)
「そういえば、前から気になっていたんだが…」
「なんだ?」
「どうしてお前、口説く時だけクウェンヤになるんだ?」
「え?」
(エレイニオンは笑顔で固まった)
「わたしがクウェンヤのわかるビックリなシンダールだからまぁいいが、でなきゃ何て言ってるのか、大体口説いてるのかどうかも分からんぞ」
「あー…そうじゃないかと思ってたがやっぱりそうなのか…」
「何が“そう”なんだ?」
「ん?クウェンヤ」
(スランドゥイルは何か嫌な予感を覚えたが、気になったので突っ込んだ)
「……なんでだ?」
「そもそも…私の父親が誰かは知っているよな」
「ん、“勇敢なるフィンゴン”殿な」
「………おまえの“勇敢”には“無謀”の匂いがするぞ」
「おお、気を遣ってやったのに。分かった分かった、“無謀なるフィンゴン”殿がどうしたって?」
「―――まあその無謀なる父上殿がだ、従兄殿にぞっこんで…」
「ああ“丈高きマエズロス”殿な」
「そうそう、今さら気を遣って遠まわしに言われても困るんだよな。父上さっぱり隠してなかったから」
(あっけらかんと認めているのもどうなんだ、とスランドゥイルは思った。だが突っ込む気にもならなかった)
「それで?」
「そんな父上だから、私の母上が謎だと従兄殿に言われ続けて、まあ私はこんなに育ち」
「わたしは知らないがな、お前の母上を」
「実は私もはっきりとは知らん」
「は?」
「何だかおぼろげな記憶が、…親子3人で旅をしていた、とかいうのがあるんだが…いまいち自信が…」
「おい」
「それでな、幼い私は私なりに父上に聞いた」
「ほー」
(スランドゥイルの相槌ももはやテキトー極まりない)
「あのー父上、私の母上はマエズロス殿じゃないですよね?」
「…………」
「……………」
(あまりに直球な聞き方にいっそ感動したスランドゥイルであった)
「……答えは」
「“マエズロスに子が産めたら産んでもらったんだけどな”」
「……お前の父は立派な変態だな」
「………」
「変態の息子」
「……もういい、父上の添え名が“変態”とかで残らなきゃそれでいい。好きに言え」
「………“変態なるフィンゴン”殿?」
「…それは、さすがに、どうかと、思う、だろう…?」
「身内じゃないがどうかと思うな」
「だろう?」
(賛同してもらえたエレイニオンは嬉しそうだ。すこし、涙目だが)
「で、クウェンヤは?」
「そうだった。そんなわけで私の母上とマエズロス殿は別人だと分かったわけだが」
「そうだな」
「父上は、中つ国に来てからずっとシンダリンで通しているんだが、」
(エレイニオンは盛大に口ごもった)
「だが、なんだ」
(エレイニオンはどう見ても完全に目を泳がせ、明後日の方向を見ながら言った)
「……惚気とか切ないコイゴコロを言う時はクウェンヤだった」
「………え?」
「私のクウェンヤ原体験は、父上の愛の言葉だ。全部」
「それはまた…」
「恐れ入ったか。しかも相手が2人だぞ。マエズロス殿と母上と。しかもまたこれが、父上は伶人だったのかと一瞬思うような異様な語彙の豊富さで」
(内容よりもそう力説するエレイニオンの真剣さにむしろ恐れ入ったスランドゥイルである)
「……そうか、お前が口説く時にやたら饒舌になるのもそのせいだな?」
「……饒舌になるのか、私は」
「そりゃもう」
「ではその勢いで口説かれてくれ」
「は…?なぜ」
「いやもう実はさっきからこの辺がウズウズして」
「ぅわ!早く仕舞えこの変態ども!」
「どもって何だ、ここには私とおまえしかいないぞ」
「お前と、ソレと、ああもうお前の父も含めて変態どもだ!」
「酷いな、誰のせいでこうなったと」
「知るか!シンダリンだと突然下品だな!」
「いや、クウェンヤもシンダリンも関係ないだろう。なにせすることはひとつだし」
「だからそれが下品だと!」
(以上、……酒の席での話である)
モノカキさんに20の台詞 お題06「早く仕舞いなさいよこの変態ども!!」