傷から来る発熱で魘されている再従弟を見つめて、ケレブリンボールは黙っている。
強くなった風はばたばたと外の幕を鳴らして、明滅するのは灯火だろう。内には光る石のランプが遠い明かりに落とされて、ぼんやりと形を浮かび上がらせている。
額の汗を拭っていると、エレイニオンはふと目を開いた。
霧がかかったように、菫色の瞳は焦点をゆらめかせていたが、ケレブリンボールを見とめて、緩慢に瞬いた。
どうして泣いているの、やや掠れた再従弟の声に、ケレブリンボールは首をかしげる。
自分の頬に手をやり、ぎょっとして離した。指にふれたのは確かに涙で、そう気づいた瞬間とめどなく溢れて来た。
後から後から、心の芯の方にある何かを溶かして、こみあげて、流れ出す。
泣かないで、と囁く再従弟の伸ばした腕をケレブリンボールは受け取った。
自分の額に押し抱き、降りしきる涙を払うように告げた。
「逃げるの、やめる」
エレイニオンはひとつ大きく目を瞬き、菫色の瞳をゆるめた。
「逃げてたの?……」
ケレブリンボールは頷いた。
「ひとりでいるのも、やめる」
エレイニオンは笑みを深くし、それから少し眉根を寄せた。
でも、風に紛れてしまいそうな声が続ける。
今度はね、大地が、沈むから……
「逃げなくちゃ。みんなで」
ケレブリンボールは涙を止められない。エレイニオンの手が優しく額を撫でるのを感じた。
名を呼ばれて伏せていた目を上げる。
「私を手伝ってくれる?」
ケレブリンボールは頷いた。一度。二度。
それが、溶けた心の出した答えだった。