まだ待っていてくれるだろう―――?
なんとなく、おおごえで言われた気がした。
マハタンは手を止めた。隣ではアウレがふんふんふんと鼻歌歌いながら非常に楽しそうに金属を曲げたり伸ばしたりまた曲げたりしている。独り言がヴァラリンだ。だから分かりません分かりません分かるわけありませんったらアウレさま。そんな奔流みたいな勢いで何か言うのやめてください。……とりあえず、アウレの声ではない。絶対、ない。
「まだ」「待つ」。まだどころか本当に、来るまで待つ気でいるのに、どうやら遠い海の向こうの相手は今とても不安らしい。
会えなくなって。
姿を、見れなくなって、そろそろ100年経つ。
たかが100年。
だが、初めての100年だ。彼と夢で会うようになってからの初めての空白。
ふいごを止めた火はもう勢いを無くしてちらちら揺らいでいる。当然、作りかけのものはとっくに駄目になっていて、マハタンは小さく溜息をつくと、てきぱきとそこらを片付けた。
海を見て来ます。そう言うと、アウレがぴたっと動きを止めた。無視して工房を出た。
カラキリアの影なす道を降りきれば浜辺に出る。最も今では常に影の道ではなく、めぐる太陽と月の光にさまざまなきらめきを返す。真正面にはトル・エレスセア。左へ行けばアルクウァロンデ。
右へ――南の方へ、しばらく歩む。浜辺の足跡は寄せる波が消していく。
―――まだ、待ってていてくれるだろう?
波の音を聞きながら、おおごえの言葉が胸に響く。
待ってるから、早く来い、この船狂い。
おおごえでは言えなくて、そんな囁きを、けれど波は正しく彼まで運んでいくだろうと思った。