今日は『とっておきのおもてなし』だとアラゴルンが言ったので、ホビットたちは皆それぞれに胸躍らせて室に向かった。
「何だと思う?」
「ごちそうが出る!」
それは結構いつもじゃないか、とメリーとピピンが笑いながら先を行く。“指輪の仲間”は出来る限り一緒に食事を取るようにしていて、つまりホビット流の回数にもそれぞれ何やかやと理由をつけてお相伴するのだった。
「馳夫さんがわざわざ言ったからには本当にとっておきだろうね」
フロドが微笑んだ。夕の気配は夜にとって変わられようとしていて、灯火を点ける都人たちが一行を見てやわらかく礼を取る。
扉に真っ先にたどりついたサムが楽しみですだね、と言いながら開け放つ。
「ゴンドールの『とっておき』ならボロミアさんが言ってたなあ…」
「!……それかもしれない」
「だといいな!」
にっと笑ってピピンが中に飛び込む。皆も笑って後に続いた。
大きな円卓にはすでにアラゴルンとガンダルフが座についてさざ波のような会話をしていた。
入って来たホビットたちを見やり、穏やかに笑う。と、そこで別の扉が開き、こちらはこちらでいつも通りのいささか口論じみたやり取りをしながらエルフとドワーフが入って来た。
揃って一同座についた。円卓の上にはすでに正餐の準備が…皿が、置かれていた。
―――あ。
声を洩らしたのはひとりではない。
皿に描かれているのは花だ。紫の、五弁の星のような花びら、青い茎、緑の葉。ところどころに赤い大きな実が描かれ、それらが絡み合って皿を彩る模様になっている。
「どうした?」
アラゴルンが誰にともなしに尋ね、ガンダルフが眉を上げる。
「この花、見たことがある!ほらあの時、」
「木の髭のところ?」
「そう!」
ピピンとメリーが急き込んで話し、
「おらは裂け谷で見ましただ。そうですだね、フロドの旦那?」
「……うん。わたしも一緒に見たね」
サムとフロドが続けて、
「私は生きた花そのものじゃないな。父上の宝物庫で…、そう“石の花”だ」
「“石の花”だって? エルフの口からなんて珍しい言葉を聞くものだ!」
レゴラスとギムリも思い当たる節はあったようだった。
ふむ、とアラゴルンが頷いた時、黙っていたガンダルフが口を開いた。
「わしは何も知らんのう」
空気が、揺れた。
一瞬の沈黙の後、その場に満ちたわくわくした気配はかつてないほどのもので。
今にも誰かが叫びだしそうな、その時、
「この皿がつまり今日の『とっておきのおもてなし』の鍵なのだが――」
アラゴルンが言うと共に、扉が開き、最初の料理が運ばれてきた。
「――話は食べてからにしよう。私からの他にも話すことは沢山あるようだから」
ごちそうはとても美味しかった筈だし、焦らずがっつかず頂いたのだが、この時の献立を何も覚えていない、と後にサムは語った。
たぶん、覚えてないのはおらだけじゃない筈ですだ。そう続けた。
なにせ食後の楽しみに、皆、気持ちが飛んでいたようだから――