マエズロスが、庭でまっすぐ縦になっていた。
そんな時アナイレはいつも彼の真正面に立って、まっすぐ縦になっていたものだった。手を伸ばすでもなく、声をかけるでもなく。マエズロスがまっすぐ縦になるのをやめるまで、アナイレも一緒にまっすぐ縦になっていた。
男の人は泣きたい時に、まっすぐ縦になって黙るのかもしれない。アナイレは一度、夫の異母兄がまっすぐ縦になるのを見たことがある。彼の妻は(アナイレの義姉でもある)、ネアダネルは、すぐに手を伸べて、まっすぐ縦になった彼に寄り添った。
また、幼なじみである義弟が、まっすぐ縦になるのを見たことがある。ちょうどアナイレと連れ立って歩いていた彼の妻、エアルウェンは、その後姿を見るなり駆け出して、アナイレは目を逸らしたので、長い影が縦になるのをやめたのしか見えなかった。
マエズロスが、庭でまっすぐ縦になっていた。
彼の真正面には誰もいない。彼はただひとりで、まっすぐ縦になっていた。
アナイレはもう彼の真正面には立てない。横からも、後ろからも、まっすぐ縦になっている彼には近づけない。
一緒にまっすぐ縦になることがアナイレのやり方だった。そういう距離感だった。
フィンゴルフィンがまっすぐ縦になりかけた時、アナイレは心の赴くままに手を伸ばし名を呼んで、抱きついて口づけをしたものだった。だからアナイレは、マエズロスの真正面には立てない。
マエズロスが、まっすぐ縦になっている。
真正面には幼いフィンゴンがいて、とても小さなフィンゴンは、手を伸ばしても勿論届くはずがなくて、抗議めいた叫びをあげて、マエズロスの服の裾をぎゅうぎゅう引っ張った。
マエズロスは縦になるのをやめた。
今だってマエズロスはしょっちゅう、まっすぐ縦になりたがる。けれどそれが成功しないのは、今や彼の真正面にいる人が、そんな隙や余裕を与えないせいだろう。
だからいいのだとアナイレは思っている。