「久しぶり、って言うのよね。先に来た時以来じゃないの?」
平原のただなかでばったり会ったので挨拶をしたら、ヤヴァンナはバケツを差し出しながらそう言った。
「そうですね。そうかも…」
答えながらフィンウェはバケツを受け取った。
「働きすぎですって?」
「ええ。らしいです」
そのままヤヴァンナが歩き出したので着いていった。丘を埋め尽くす低木の茂みにヤヴァンナは入っていくと、真っ赤な小さな実を摘んでバケツに放り込み始めた。フィンウェも真似をした。
「働きすぎはろくなことないわよ。アウレが創世の時へとへとでね。そのうち泣き出したわあのひと」
ととん、とん、ととん、バケツに放り込まれる実がころころと音をたてる。
「はぁ…」
ヤヴァンナは手を止めない。フィンウェも背中合わせのように実を採る。ととん、とん、ととん、転がる実が積もり、あまり音をたてなくなった頃、そして手を触れない茂みがなくなった頃にヤヴァンナはフィンウェに向き合うと頬を撫ぜた。
「フィンウェは火が苦手なのよね」
「……、はい」
「不思議なものね」
フィンウェは目を伏せて微笑んだ。
「――ええ、本当に」
ヤヴァンナはバケツを耳元に掲げて静かに揺らした。
「あげるわ、それ。どうする?」
フィンウェもバケツを掲げた。赤い実が触れ合って、低い音をたてた。
「食べますよ」
「生で?」
ヤヴァンナは実を摘むと、くい、とフィンウェの口にそれを押し込んだ。甘酸っぱい味が広がった。
「休暇ですから」
フィンウェは悪戯っぽく笑った。
「うちの料理人は腕が良いんです」
「では今度ガラシリオンに会いに行くわ」
気の無さそうに言うと、ヤヴァンナは実をひとつ口に入れた。きゅっと眉がしかめられたのを見てフィンウェは笑った。