アナイレとお茶を飲む

「お知恵さんとふたりっきりで話すの初めてかしら…?どうしよう、あたくし、今ってかなり、緊張、してる、わよね」
 ぶつぶつと鏡に向かってアナイレは繰言を述べていた。残念ながらツッコんでくれる幼なじみは近くに見当たらない。
 うんそれ私ここにいて聞いてるんだけどな、と思いながらフィンウェはにこにこして座っていた。――面白かったからだ。
 知り合いの娘として見ても、息子の連れ合いとして見ても、アナイレは「可愛い顔してヘンな性格」の典型みたいな人物だった。自分や友人のことは思いっきり棚に放り投げてそんなことをフィンウェは思っていた。
「アナイレは、服の見立てが得意だよね」
 どうにかこうにか落ち着いて、お茶を飲みながらご歓談。傍から見ればそんな雰囲気の、一応中身もそんな雰囲気のひと時が流れていく。
「え、ええまあ、多分、上手いんだと思いますわ。……お義父さまには必要ありませんけど」
 多少目が泳ぎながらの言葉は、最後の一言だけ妙にすわっていた。
「そう?なぜ?」
「お義父さまはフェアノールさまと同じですもの」
 フィンウェはひたりと目をすえた。アナイレは――むしろ嫣然と微笑んだ。
「何をどう着ても何とかサマになるわ。そういう方はそのままであれば良いの。あたくしがどうこうすることじゃないの」
 フィンウェはゆっくりと目を瞬いた。へえ、と感心した声音の相槌が洩れた。
「なるほど」
「そうところで、あたくし、お義父さまが苦手なんですけれど何故かしら?」
 うんだからそれ目の前の私に言って良いのかな、とフィンウェは思った。そして言った。
「まあ、人生イロイロだから――良いんじゃない?」
「良くないと思うから困…お義父さま、はぐらかしましたね?」
「うん」
「ちゃんと答えて下さいませんの」
「休暇だからね」
 アナイレはぷうっと膨れた。フィンウェがけらけら笑った。