「ではそなたの席はココだな」
抱えあげられて膝の上で観戦することになり、フィンウェは焦った。
「トゥルカスさまっ!?」
「休暇なのだろう?面倒な儀礼も何も要らないな」
「だからってこんな…。離してください」
ヴァルマール、トゥルカスの競技場は賑わっていた。いつも賑わってはいるのだが、今回は何故だか“賞品”があるらしく、優勝を決めよう!という主旨のもと、勝ち抜き戦が行われているのだった。
特に観に行こうと決めていたわけではなかったので、かなり遅れてやって来て、競技場のすみっこにこっそり紛れこめた。と思ったのもつかの間、あっという間に発見されて――今に至る。最前列まで来いと言われて行ったが最後、なぜかトゥルカスの膝の上に捕まえられてしまった。
普段よりも観客の多い競技場で居心地悪く試合を見て、優勝者が決まったことに笑う。
これでやっと開放される、とほっとした瞬間、トゥルカスはフィンウェをこどものように抱っこしたまま立ち上がった。ぐらっと揺れた視界に、慌ててトゥルカスにしがみつく。
「なっ…!?」
「さてフィンウェ、そなたが渡しなさい。わたしは手が放せないのでね」
台の上に置かれた籠手(“賞品“だ)を顎で指してトゥルカスは言った。
「私を降ろせば済む話でしょう!?」
「降ろせぬ理由も表彰の理由もあるな」
トゥルカスは片手で籠手を取ると、ひょいとフィンウェに押し付けた。
「いくら休暇だからといっても、彼らの“わが君”はそなただ」
優勝者は若いノルドの、しかも女性だった。ちらっと見て目が合ってしまい、フィンウェは焦った。トゥルカスがこれ以上楽しいことはないという声音で言った。
「例えばわたしが何かを、そうだな、アウレから貰うとして、しかしそれをマンウェから渡されたら格別に嬉しいぞ」
壇上で緊張と期待の入り混じった表情で待っている優勝者を見て、フィンウェは観念した。
「………私からなんかで悪い気がするんだけど…」
言い訳がましく口の中で呟くと、フィンウェは一旦目を閉じて、それから笑った。
「優勝、おめでとうございます」
籠手を渡して、流れのままに額にくちづけをすると、観客が沸いた。そら見たことか、とトゥルカスが言った。
「――終わったんだから降ろしてください」
恨みがましく言うと、トゥルカスはふむ、と頷いた。
「いやそれがな、イルモが…」
「イルモさまがっ!?」
ぎくっとしてフィンウェは叫んだ。
「そなたがローリエンに寄りつかないから、どこかで会ったら逃がさずに捕まえて連絡するようにと、な」
途端に暴れだしたフィンウェを軽々と片手で抱きすくめ、もう片方の手で頭を撫でながらトゥルカスはからからと笑った。
「イルモの説教は恐ろしいか!ここらで観念しておいた方が後々良いのではないか?」
「休暇だから…っ、嫌なんじゃないですか…!」
競技場からは観客がざわざわと引いていき、トゥルカスは笑い、フィンウェは暴れていた。