SunlighT

 彼の妻は、エルダール一の変わり者を父に持つ彼からしても変なエルダールだった。
 彼、カランシアはそれでも妻を深く深く愛していたので、彼女の「変な」行動にもさしたる不満を覚えずにつきあった。
 ということは、彼女が、怒りっぽい彼が怒らない稀有な存在かというと、そうではない。いつだって彼女は彼を怒らす。けれど同時に、怒りの弾ける前に萎ます。そういった意味ではとても稀有な存在だった。
 別居している夫婦なものだから、カランシアは彼女に会いたくなったら即出かけていく。この場合、先触れは役に立たない。彼女は夫の優先順位をだいたい三百~八百番台くらいに位置づけているからだ。すごく細かい分類で。
 その日の第一番の優先事は、畑だった。
 ヴァンヤでもないくせに農作業がやたらと好きな彼女は、収穫期に入ると夫のことなんかまるで省みない。カランシアは彼女が収穫にこだわる理由に今ではもう気づいているので、おとなしく付き合う。訪ねて行けば最後、収穫の道具を渡されて、ここからここまでと分担を指示されて、カランシアは畑に放り出される。彼女の畑は一つの作物だけが植わっているのではなく、五つ六つの作物が種々に生えているので、収穫にはかなりの注意が必要だ。
 朝早くから夕べの遅くまで、金だの銀だのの光にまみれながらカランシアが妻を手伝うのは、広い畑の、だがそれでもどこかに彼女がいるということ、離れていても同じことをしているのだと思うそのことが、ひどく幸せだからだ。
 さて、おひるには彼女はカランシアを捜しに来る。そんな時カランシアは、玉蜀黍の葉っぱに隠れなどしてみたりもする。彼女は六百番目だか七百番目だかに優先する夫のことは、捜していてもすぐに見失う。見失って、もう他のことしようかな、などと思っている彼女をカランシアは抱きしめる。
 彼女はぬるまった畑の土のようで、そう言うと、わたし以外にそんな誉め方したらいけないよっと弾けるように答えて、笑う。

 後の後、中つ国で「穏やかな日差し」というものを浴びて、カランシアは妻を思い出した。そんな彼を、人の子の娘が、穏やかな眼差しで見ていた。
 父を愛しむ娘のように。息子を見守る母のように。