俺のじゃない、と呟くのをマイグリンは聞き逃さなかった。
本来、男のものである剣を抜き放ち、突きつける――確かに刃身の模様が自分のものとは違っていた。
「フェアノール王家の剣を持ち、フィンゴンの軍に加わるお前は何者だ?」
胸元から喉元へ切っ先を上げると、男は刃先を見つめて、ごくりと喉を鳴らした。
「疾く答えよ。この都で生きていたければな」
「――何者と言うわけでもありません」
男は困ったように眉を下げた。
「クルフィン殿の傍にずっといましたが、あの方と道を分かち、いかなる運命の悪戯かこの都に来ることになっただけのこと」
そう言い、男は鞘に入ったままの剣――マイグリンのものだ――を少し持ち上げてみせた。
「この剣は、あなたのでしょう? 爛華なるケレゴルムから従妹姫アレゼル・アル=フェイニエルへ。そしてあなたへ、マイグリンの殿」
マイグリンは男の目を鋭い視線で見たが、水色の瞳は一瞬マイグリンの視線をとらえ、すぐにその目を伏せた。
「わたしの剣はクルフィン殿から頂いたもの。…ナルゴスロンドにいたのです。そしてそこももう出た。それだけのことです」
男が明かした以上のことを、マイグリンは何も読み取れなかった。
切っ先を引くと、男は小さく息をついた。
「採掘場のことだが」
「助かりました!」
急にまっすぐこちらを見て笑った男にマイグリンは呆れた。
疑うのが阿呆らしくなるほどに、それは無邪気な笑みだった。