「無邪気だと言われたのですわ」
「無邪気ィ?」
マンウェは心底意外だというふうに、そう返した。
「ええ。わたくしは無邪気にすぎるのだと、ヤヴァンナが」
「むじゃき…」
「邪気が無いという意味ですよ、殿」
「うん、知ってるけど~…」
「けど、何ですの」
「んー……、何でもない」
いかにも何でもありそうに、マンウェはふいっと目を逸らした。まあ!とヴァルダはむくれた。
「殿、殿ったら、そういう時は、たとえ外れてると思っても賛同してくださるものでしょう!?」
「や~、だって、無邪気、はねぇ」
「わたくしだって別に、ぴったり当たってるなんて思ってませんわ」
詰め寄るヴァルダに、あははと笑ってマンウェは言った。
「ま、そういうイメージもあるってことだね」
「……殿は、そう思ってはくださいませんの」
「え、わたし?」
問われてマンウェは首をかしげた。
「う――ん…」
「…………」
「……んー……」
「…………」
「……………むー……」
「……もういいですっ」
ヴァルダはすっかりむっつりして、マンウェに背を向けた。
「ヴァルダー、怒った?」
すかさず声が飛んでくるが、どうもからかいの色が強い。
「怒ってません」
「怒ってるー」
「怒ってませんわ」
「じゃあ、こっち向いて?」
くるりん、と振り向かされたので、ヴァルダはそっぽを向いた。
「ヴァルダ…」
マンウェが苦笑するのがわかった。なんだか悔しいので、ヴァルダはそっぽを向きっぱなしだった。
「ヴァールダー」
きゅっと抱きしめられて、つい、いつものように顔を見たくなる…が、なんとか耐えた。
だというのにマンウェは髪を撫で、耳元でひっそり囁いた。
「わたしのこと嫌い?」
ヴァルダは眩暈がした。
「大好きですっ!」
噛みつくように叫ぶ。マンウェが弾けるような笑い声をたてるのが悔しくて悔しくて、ヴァルダは、きっ!と夫を睨みつけた。
「殿は意地悪ですっ」
「そうだね、意地、だよねー」
マンウェは輝くような笑顔を浮かべた。
空よりも宝石よりも美しくきらめく瞳に、ヴァルダはうっかりぼうっと見とれた。
「ヴァルダはこう形容すべきだね」
抱きしめなおされて、口づけひとつ、言葉もひとつ。
「意・地・っ・ぱ・り」