ヤヴァンナ

 ヤヴァンナは目の前の幹に手をついた。
 詰めていた息を吐く。
 指先が震えている。
 目の前には光、光。ただまばゆくきらきらと。

 ヤヴァンナは瞳を閉じた。
 体の奥の奥、おそらく心が発光している。
 耳元では言われた言葉がくるくると踊り、――じきに音楽になるかもしれない。
 創生の時と同じほど心ふるわす音楽に。

 ヤヴァンナは瞳を開いた。
 若く小さかった木はあきれるほど大きく育ち、つやつやと葉を茂らせ、挙句に花まで咲いていた。
 定めた季節はあまりに遠いというのに。
「ああ――、なんて」
 咲いた花は輝かんばかりに鮮やかで美しく、誇らしげだった。
 風が少し流れ、葉も花もさららと揺れた。
 その動きすら喜びに震えるようだった。

「これは、あたしらしくは、ないかもしれないではないの…」
 わかっていた。この木を浮かれさせたのは何なのか。
 それはアウレの言葉に対するヤヴァンナの心だ。
 ヤヴァンナの、喜びだ。

 (いてくれ。ここに。お前らしく)

 おそらくその後は求婚であると、受け止めてもいいのだろう。
 あのアウレのことだ、そこまで考えが及んだわけではないにしても。

「まあ、困った、愛しいひとだこと!」

 返事も聞かずにいなくなってしまうなんて。
 ――返事を、求めてもいないなんて。