ノルドールの王の資質

 ノルドの王様はまったく気楽じゃない。
 いや、性格によっては気楽なのかもしれないし、
 そもそも王様になったなんて自覚があったのかどうか謎なままとっとと王権渡してる人もいるし(笑)。
 ノルドの上級王なんて地位は懇願してでもいいから絶対になりたくない。

 さてその上級王、フィンウェさんから始まって7人、いる。
 これってフィナルフィンも入れれば8人なんだけど、継承していった順で考えると、なんか彼は数えにくいのよねー。
 え、7人もいないだろうって?
 いいえ、宣言しているしていないに関わらず、
 前の王の死亡が確認された時点で世襲の掟やその時の状況で考えると、ちゃんと7人いるのです。

 フィンウェ、フェアノール、マエズロス、フィンゴルフィン、フィンゴン、トゥアゴン、エレイニオン。

 ほら7人。図らずもマエズロスの父名はオオアタリだったわけです。
 ネルヤフィンウェ。3代目ノルド上級王だったわけですから。っていっても9割方虜囚の身でしたが。

 この上級王の位についていた方で、ほんとにノルド全体を治めてたのって、ふたりしかいない、と思っている。
 フィンウェとエレイニオン。このふたり。
 フィンゴルフィンとフィンゴン、トゥアゴンは結局、マエズロスの率いるフェアノール一族がいる限り、
 完全にノルド全体を治めてはいないんだと思う。
 けど、ノルド上級王の資質という点で、フィンゴルフィン一族は、ちゃんといいもの持ってたと思われる。

 ノルドに限らず、エルフ全体と言ってもいいかもしれない。
 エルフというのはつまりは野生動物なのではないか、と思う今日このごろ。
 王さまの選び方がすでに野生動物のそれである気がする。
 曰く、
『リーダーには力の強い者、気性の激しい者が選ばれるのではない。
 そういった者は群れを駆り立てることはできても群れを導くことは出来ないからである。
 リーダーには、群れで一番思慮深く、物を知った者が選ばれる。
 そして、群れはリーダーに従うが、従わなければならないから従うのではない。
 従っていれば安全だから従うのである。
 だから、リーダーについていけないと思ったら群れから離れればいい。
 そうして群れは発展していくのだ』と。
 このリーダーを「お知恵さん」と言う@シートン動物記
 ウチのマハタンはフィンウェさんのことを「お知恵さん」とあだ名している(関係…一応ある)

 最初に目覚めた3人のエルフは、最初に目覚めたから指導者になった。
 最初に目覚めた、つまり、年上だったから。経験が豊富だったから。お知恵さんだったから。
 フィンウェ達、エルダールを率いた3人は違う。
 半ば世襲みたいな観念があっただろうけど(そういう設定にしてみた。孫なのだ3人とも)、
 あの3人はヴァラールのもとへ、ヴァラールの世界を垣間見に行った使節だ。
 なんだろうね。むしろ巫女。巫女であり助言者であり、聞いて受け入れる者。
 たぶん彼自身の考えた言葉というのは返さない。相手の言葉の真実の部分を返す。
 オブラートに包むかどうかは腕の見せ所といったところか。そう考えると料理人ぽいかもしれない。
 いやでも、アマンを先に見たということで経験が増す。お知恵さんの位置になったのかもしれない。

 この、お知恵さんに従う群れの観念が、「ついていかなきゃいけない」じゃなくて、
 「ついていけば概ね安全」だっていうところがナイス。
 「絶対安全」じゃないあたりが実に自主自立している群れでナイスだと思う。

 ……そしてテレリはともかく、ノルドはそんなイメージがある。てんでんバラバラ。個性というにはキツすぎる方々の集まり。
 とりあえず集まってみたけど、どうなのよ?
 なのにうっかりひとつのことに集中すると、周りが全く見えなくなる。
 そんなのが集団。で、同じひとつのことに「皆がそれぞれ」集中しててごらん。どんな奴がそんなのまとめられるって言うのさ?
 いや、まとまってるんだよ。
 でも全くまとまってないんだよ。どうやって導いたらいいのかしら?

 その導きを呼吸のように、ごく自然に、本能的に、もはやそうするべく生まれついたかのように、やってしまうのがフィンウェさん。
 そういうことだと思う。公人として、というか、王としてのフィンウェっていう方は。
 彼はとても偉大な王で、だけど彼が王でなかったら多分シルマリルをめぐる一連の悲劇は起こらなかっただろうな、と思った。

 フィンウェさんが王だからフェアノールが長男で、王の跡継ぎになったわけだし、
 フェアノールが王の長子じゃなければフィンゴルフィンは従わなかったし、
 フィンゴルフィンが行かなければ、あんなに大勢のノルドールはくっついてこないだろう。

 シルマリルの悲劇の始まりは突き詰めればエルフをアマンに連れてきたことだとは思うけれども、
 少なくとも、フィンウェさんが死ななければ、たとえシルマリルを追っかけてアマンを飛び出しても、マンドスの呪いは受けなかったに違いない。

 なぜならノルドールを率いて行くのはフィンウェだから。

 分裂は起こるかもしれない。
 一部のノルドは残るかもしれない。中つ国を出てきた時も、タティアールの中からアヴァリは出たのだし。
 だけど付いてきた者はすべて従う。率いるのがフィンウェだから。だから同族殺害は起こらない。
 フィンウェさんが頼んだら、オルウェは船を貸してくれたかもしれない。
 貸してくれなかったら、フィンウェさんは諦めてヘルカラクセを渡るだろう。
 でもきっと、そもそも、飛び出すのすら迅速だけどもあまり準備不足でなく、ちゃんとしてるだろう…。

 けど、フィンウェさんは死んじゃった。
 この、死んじゃったあたりで、「ああもう限界だったんだな」と私は読んでて思ったりした。
 フィンウェさんの、ことフェアノールに対する立場は、まったくもって王らしくない。
 ていうか、他はこの上なく良い王さまなのに、長男に関する時だけ、王さまじゃいけないひとみたいになってる。
 これって、フィンウェさんの中で、王たる自分と、私人の自分がどんどん乖離していっちゃったことの現れなのかな、とか思ったり。

 ノルドの王の資質が、野生動物のリーダーの条件とほぼ一緒だとすると、
 フィンウェさんには、自分の長男が王さまに向いてないのはもう物凄く早くから分かっていたに違いない。
 だってお知恵さんだもん。

 インディスと再婚したのはそこを考えてのことだと思ってます。
 だけどフィンウェさんにも誤算なことに、フェアノールにはフィンウェさんの愛し方がわからなかったんだよ。
 …ていうか私もたぶんフェアノールと同じ立場だったらもっとグレてるかもしれないから強くは言えないんですが(爆)、
 フィンウェさんは『ノルドの王』にはどういう人物が必要か、よくわかりすぎてたから、
 とっとと長男を跡継ぎにするのは諦めたんですよ(わぁ)。
 ここで踏みとどまって、なんとかフェアノールに王位が継げるようにもう超マンツーマンで育ててみればよかったのかもしれませんが、
 いかんせんミーリエルがいない…。ミーリエルがいないのに、フィンウェさんにそんな王さま育てるなんて気力体力根性ありません。
 ここらへんはまた別に語りたいと思います。だって超複雑。
 ていうか、フィンウェさんはでも、シルマリル一の超ワガママだと思います。隠れて見えてませんが。

 あー、なんかフィンウェさん語りと化してきた。あぶないあぶない。

 フォルメノスにフェアノールを追っかけていった時にフィンゴルフィンに王位を譲っていったのは、
 実はフィンウェさんにとっては計画の一環だったのじゃないかしらね、と思った。
 だって、フェアノールに王位を譲っても、フェアノールは『群れを駆り立てることはできても群れを導くことはできない』んですよ。
 だから、フィンゴルフィンに譲るんですよ。
 結局は最も良き王であるフィンウェは死んでしまい、
 『群れを駆り立てる』フェアノールが王になりノルドールはアマンから去ったわけですが。

 ちなみにフィンウェさんの子孫の中で、ある日突然フィンウェさんの立場になったとして、
 一番うまくちゃんと王さまやれるのは、マエズロスだと思います。

 治められる。うん。自分のワガママぶりをちゃんと隠せてるし。
 だけどほんとにほんとは、マエズロスが一番向いてるのはトップでなく二番手の位置で、
 王フィンウェ、補佐マエズロスとかだったら、もうこれ以上に望めないナイスな政権ができると思うんですけどねぇ。

 ていうかそれって、私の個人的な解釈ではまさにフィンウェ&ミーリエルの時代ですよ。
 ウチのマエズロスとミーリエルは非常に良く似ていますから。