愛し子 語り

 この話だけはどーしても父名母名分けて書く必要がありました。

 マエズロスの父名が「ネルヤフィンウェ」なのがいけません。そこまで何かにこだわってしまった父名もそうそう無いと思うんですけど(爆)。ここはあえて「3番目の」と訳したいところです、「3世」だとね、「本人・子・孫」と考えれば超普通に真っ当かつ何も考えてない命名になってしまうのですよ。例え間にふたり挟まっていようとも。「フィンウェと名の付く3人目」っていう解釈しなければフェアノールの直球なこだわりぶりがわかりません。

 ええ、認めてませんよね、フェアノール。「○○フィンウェ」な名のふたりのこと。

 ただ、ろめ的に考えますと、これって存在を認めてないわけではなく、名前を認めてないんだなぁと思うわけです。ろめのフェアノールはあまりにも「フィンウェ」にこだわりすぎなのであります。大事大事してるわけです。

 【愛し子】、フェアノールは基本的にマエズロスのことをネルヤフィンウェ省略形の「ネルヨ」で呼んでおります。出てきませんけど普段の自称も、この頃は「クルフィンウェ」です。父名です。「フィンウェ」にこだわりつづけるフェアノールは、名前を呼ぶ時も常に父のことを考える状態にあります。「フィンウェの息子であるクルフィンウェ」「フィンウェの孫であるネルヤフィンウェ」です。

 それに呼応するかのように、弟たちの名前は極力呼んでやりません。その名前を呼ぶくらいだったら弟と呼んだ方がまだマシ。……そんな微妙な考え方するひとです、ろめのフェアノール。

 しかし「フィンウェの何々である誰々」って、そのひと自体の存在を認めてるとはちょっと言い難い感覚ですよね。おいそのひとの価値(?)判断基準はその「フィンウェの何々」な部分か、という。

 ですからあのシーンでは母名になります。あそこでフィンウェさん絡めるわけにはいきませんよ。そしてフェアノールもそれを無意識的に行っているからこそ、この話は成立するのです。マエズロスはフェアノールを留める引力になり得るわけです。愛しい存在として認識されてるのです。

 不幸だったのは、フェアノールは、「愛しい存在」は「世界」がいないと認識できなかった、というところ。だからフィンウェさんを亡くしたフェアノールは、いかなる感慨も持てないのです。本当言うと持てないわけがないんですが、そう思い定めてしまったのでわからない。思いこみって怖いですよ。

住む場所についての捏造過多な語り

1 別居と同居のえとせとら

 マエズロス10歳。

「ネルヨ。王宮で暮らすのは嫌か」
「……父上と母上は、ごいっしょではないのですか」
「時々は帰る」
「おかえりになられるのだったら、いいです。……あ」
「?」
「いってらっしゃいませ(ちゅ)」
「――何処で覚えたのだ、その挨拶は」
「おばあさまがよくいってます」

 そんなわけでマエズロスは王宮暮らしになりました。
 このおばあさまはマハタンの奥方のことです。生まれてからかなりの間一緒にいたので、工房に出かけるマハタンを送り出すのを良く見てたんです(笑)。
 フェアノールとネアダネルは今さら新婚旅行してみたり、仕事に打ち込んでみたり、あれやこれややりつつ半ば別居状態です。ばらばらにティリオンに寄って息子の顔を見ます。一緒に来ればいいのに…。

 マエズロス30歳。

「ネルヨ。王宮暮らしは嫌なのか?」
「お帰りなさいませ父上!……?いえ、嫌なことはありません」
「何故にこちらの館にいる」
「あまり父上も母上もお帰りになりませんし…使わないのもどうかと思いまして。でも食事は向こうでとってます」

 相変わらず別居状態の両親は、息子がおっきくなると共にいよいよティリオンにはやって来なくなります。マエズロスは何気に“離宮”でひとり暮らししてみたりしてます。でもごはんは王宮でとります。料理人さんに悪いし、みんなで食べた方が美味しいので。

 マエズロス49歳。

「ネルヨ。……ティリオンは好きか」
「好きです、けど…」
「…………」
「……………」
「……けど、何だ。申せ」
「………いえあの、……父上と母上がいらっしゃればもっと好きなんですけど」
「…………」
「……………」
「……そうか」
「はい」

 成人間際な息子が突然そんなこと言い出したのでフェアノールはちょっと慌てました。実はやっぱり淋しかったのかそうなのか!? そしてネアダネルに話しに行って、初めて「同居」なんぞしてみるか、と決定してみました。“離宮”に家族3人揃いました。初めてです(爆)。

 マエズロス75歳。

「ネルヨ。そういえばそなた、結婚はしないのか」
「は!? 今なんか言いましたか父上!こら!ティエルコルモ!またカルニスティアを泣かして!」
「…………」

 6人家族になる頃には“離宮”も大分手狭になってきました。長男は息子みたいな年の弟たちの面倒で手一杯で結婚する気もないようです(気がないんじゃなくて暇がないんですけどね)。ネアダネルはこの頃マグロールを連れて社交に回っております(というか、アナイレに連れまわされてるとも言う)。マグロールは奥様方にとってもウケが良いのです。
 フェアノールはもともと工房を建てる予定でしたが、いっそもう工房くっついた館を建ててやろうと決意しました。

 マエズロス110歳。

「ネルヨ。………そなた家を出る予定でもあるのか」
「……ええ、と…?どうかなさいましたか父上」
「…………」
「あー、そしたら、ですね…。あの、しばらくミーリエルおばあさまの家に行ってて良いですか」
「(ティリオンじゃないのか)――好きにしろ」

 ティリオンからちょっと離れた花畑(トゥーナの丘の横らへん?)にある、工房くっついたどでかい館が“フェアノール邸”として認識された頃。クルフィンが10歳くらいになると父上の良いお相手が出来ます。んで、某従弟も思春期(あるのか?)に突入して、何やかやとアタックしてきます。おかげでマエズロスがティリオンに行くのがますます気に食わなくなったフェアノール。かまかけてみたら意外な答えが返ってきました。
 “ミーリエルの家”はマハタン家所有の小さな工房です。ミーリエルがフィンウェさんをふってふってふりまくった所です(笑)。

 マエズロス111歳。

「兄上。差し支えなければ家に帰って来てほしいんですが」
「まあ、差し支えは無いが…。どうした?」
「父上が、兄上がいないと不機嫌なんです」
「…………(何を今さら)」
「私、結婚したいんですけど」
「!………マカラウレ」
「言い出せません…」
「……わかった」

 1年(太陽時間にして10年)とたたずに独り暮らし終了(爆)。
 マエズロスが帰ってきたので、マグロールはうきうきと結婚しました。父上も落ち着きました(おい)。そうこうしてるうちにカランシアも結婚したりして、何気に5人家族とかになってました“フェアノール邸”。が。

 マエズロス150歳。

「アンバルッサ!――ここへ、来なさい(びし!)」
「マイティモ兄、叱りの芸風変わったなぁ…」
「“正しい父”の姿、という感じですね」
「…………。(くるり)マカラウレ。カルニスティア」
「「なんですか、兄上」」
「どうしてお前たちが出戻ってきてるんだ!!」

 出戻ってるんじゃありません。別居婚なだけです(通い婚か…?)。とか言われて、「またウチの両親が別居婚みたいな感じだからかそうなのか!?」と軽く落ち込むマエズロス。
 ネアダネルはこの頃、また実家にいることが多くなります。フェアノールはクルフィン連れて工房に篭る時間が長くなります。ケレゴルムは…オロメの所に入り浸りです(笑)。

 マエズロス190歳。

「アタリンケ…。お前、結婚していたというのは本当なのか」
「……(こくん)」
「どうして黙ってたんだ。普通に言…」
「ネルヨ!父上をお連れしろ!今すぐに!!」
「は…?あ、ハイ」

 クルフィンが結婚してたらしいってことを問い詰めてたら、突然父上にフィンウェさん呼んで来いと言われました。王宮に行ったらネアダネルがいたので、一緒に来てもらいました。久々に家族全員、邸に揃っています。
 シルマリルのお披露目でした。
 家族9人同居生活に戻るんですが…。

 マエズロス230歳。

「ネルヨ。そなたとしては不満であろうな」
「…………場所に関しては何とも思っていません」
「……………」
「仕方のないことです。心が添わぬのに一緒にはいられませんから」
「………添わぬわけでもないのに一緒にいられないことはある」

 フォルメノスに移住です。
 完全別居になったフェアノールとネアダネル。で、父上についていくマエズロス。兄についていく弟たち。そんな構図なんですよね、フェアノール家って…。

 こんな感じでフェアノール家の住む場所というのは、離宮→花畑の邸→フォルメノス、とうつっていったのではないかな~と考えているのですが。

2 「うち」の概念

 フェアノールにとって、家(うち)って、何でしょう?
 この疑問があるわけです。houseじゃなくてhomeの概念。かなり近いところもあるんですけど。

 ミーリエルと太陽時間での1年で別れているフェアノールにとって、“家族”はフィンウェさんしかいません。その状態を私は「父であり、母であり、世界すべてであるひと」と解釈してます。
 homeを家であり、「うち」であり、帰るところであり、基盤、原点、そんな解釈をすると、少なくとも成人するまでのフェアノールの意識上では、それはフィンウェという存在そのものにかかるところなのであります。場所じゃない。ティリオンという都は、フェアノールにとって「父上のいるところ」以外のどんな意味も持たない。「自分の育ったところ」という感慨はないんです。それは王宮も同じこと。父上のいるところであって、父上が感慨深く思っているところという認識はあります。だけど自分の感慨はない。さっぱりない(それはそれですごいんじゃないか…)。

 文字を完成させたころに、フェアノールは建築分野に興味が向きます。ろめ的に言いますと、“コール”とマハタンの工房に通って手の技だったり文字だったり開発していたわけですが、……コールとマハタン家って、同じ建築家さんが造ってたりするわけです(笑)。マハタンの奥方(つまりネアダネルの母)なんですが。ティリオン王宮の一部も造ってまして、しかもそれがフィンウェさんのプライベート部分だったりするので、フェアノールにとっては一番見慣れた(馴染み深い)建築。ついでに言えばそれって、フィンウェさんの好みでもあります(笑)。それで、建築分野が気になるよーってなことを言ってみたら、フィンウェさん豪快に「じゃあ君の館でも建ててみたら?」と。
 それで建てたのが“離宮”であります。“離宮”って通称なんですけどね。こっそり繋がってたりするし、住んでる(?)のがフェアノールである以上、ティリオンに住むノルドからしてみれば「あそこも王宮」でしょう。
 フェアノールは不器用な天才なので“離宮”は何気に「作品」としてしか見ていません。ティリオンに来た時には勿論父上と一緒にいたいので王宮に泊まります。建てたのに…。

 しかし“離宮”を建ててしばらくした頃(成人間際)に、フェアノールは恋と呼んでも差し支えないような気持ちに気づきます。ネアダネル。
 すでにその頃までにマハタン家とは家族ぐるみの付き合いをしているわけですが(ミーリエルがいればそれはもっときっぱり日常だったでしょう)、何故かある日突然気づくわけです。もしかしてこれが「家庭」ってものなのだろうか、とか。マハタンと奥方にはどっちも師事してる分ある意味「師匠夫妻」な目で見てるわけですけど、そうなると、ネアダネルって私にとって何だろう?(ていうか「私にとって何」を初めて考えた)
 結論というか、方向付けから言いますと、フェアノールにとってネアダネルっていうのは初めて持った「秘密」であり「幸福」なんだと思います。ずーっと一緒にいた父(ほとんど思考や感覚も沿っていた父)と、初めて離れたきっかけ。
 それまでのフェアノールっていうのは、フィンウェさんを通して世界(自分を取り巻く環境)を理解していたわけです。自分で探求や開発をするんだけど、そもそもそれをするに至ったきっかけや、学ぶ場は、まずフィンウェさんに与えられていた。それが苦じゃないどころかそれで良いから良かったんですけどね。だから余計に「世界」であるし、最終決定権を持つ存在だった。ある意味で、それまでのフェアノールに自我というものはないと言ってもいいわけです。
 ところが、ここでふと気づいた気持ちは「世界」は知らない。そして言うつもりもない。……初めて持った「秘密」です。この秘密をどう感じるかというと、何か良く分からないけど嫌じゃない、言うなれば「幸福」かもしれない。もっと話したいしもっと知りたい、もっと私のこと分かって貰いたい。で、男と女がそういう関係になるというのは、どうやら「結婚」した方が都合がいいらしい。
 そーんなこと考えてそれをネアダネルに言ってみたら結婚してもいいよと言ってもらえたので、何はともあれ父上に報告、に行く、と、父上のたまいます「再婚するから」。
 がーん…。
 世界に秘密を持ったのを咎めるような強烈なしっぺ返しでございます。な、何!? 何がどうしてそうなったんだ知らない間に!と思いますが、知らない間にそんなことしてたのはこちらも同じわけで。がーんがーんがーんとショック音が響き渡る頭のままよろよろとネアダネルに会いに言って大混乱なまま話し合い、「婚約」に落ち着きます。

 そしてフェアノールは“離宮”に住み始めます。遠すぎないけど適度に遠いその場所で、いろいろ考えます。なぜ、なぜ、なぜ??
 「そばにいたいが遠くへいきたい」これが、フィンウェさんの再婚以降のフェアノールの基本感覚です。離れてみようと決意して、結婚式後にフェアノールはティリオンを出ます。かと言ってマハタン家に転がり込むのは何とも微妙だし、ヴァラの館渡り歩くとまたどんなお節介焼かれるかわかったもんじゃないので(ひとりになりたいので)、コールにしばらくいましたら、ルーミルあたりに勧められるわけです。「ミーリエル姉の家は?」
 それからフェアノールは“ミーリエルの家”に住み始めます。考え続けます。父上のことと、今まで考えもしなかった母のこと。ローリエンにも出かけていくかもしれません。マンドス(現実)へも出かけていくかもしれません。彷徨はいっそう酷くなり(さらに目的もなくなり)アマン中のあちこちへ出かけるようになります。ネアダネルと共に。そして、ごくごくたまに、ひとりきりでティリオンへ。

 で、その間っていうのは婚約期間だけが延々とのびていくわけですが…ある日、ネアダネルが何事か悩んでいるので聞いてみました。するとこう返ってきました。
「こどもができたの」
 フェアノールは腹を決めました。父上に今度こそ言いに行きました。(ちなみにその時がフリーSSの【ご機嫌よう】です(爆))
 でもやっぱりティリオンに住む気にはなれなくて、ちゃんと結婚したもののどうしようかと悩んでいるうちにマエズロスが生まれるわけです。マハタン家で。そのまんま秘蔵するように育ててたわけですが(フィンウェさんは速攻押しかけてきましたが(爆))、いつまでも秘蔵してるわけにはいかず、ちょっとだけ気が向いたのでじゃあティリオンに行くか…と行くことになったわけです。しかし大誤算はネアダネルが一緒に来ないことでした。
 そんな感じで今回の話となるのですが…。

 「1 別居と同居のえとせとら」でも分かるように、フェアノールはそれでもティリオンに寄り付きません(爆)。ネアダネルと一緒に今さら新婚旅行と称して、目的ない彷徨ではなく隅々まで探検してやるわー!とばかりにさらに奥地まで行ってみたり、それぞれてんでバラバラに自分の仕事に打ち込んでみたり、思いついて息子の顔見に行ってみたり。
 マエズロスを王宮に預けたのは、初孫をフィンウェさんがめちゃめちゃ喜んだのも理由のひとつですが(もー、凄いと思う、喜びっぷり)、彷徨ばかりでは成長環境的によろしくなかろうと思ったからです。どこにどう転んでも、直系長子である事実は変えようがないわけで、そういった世界に慣れておいた方が後々よかろうとも思ったかもしれません。
 しかしまぁ、成人間際になって「同居がいいなー」みたいなことを言われたフェアノール、軽く悩みます。さすがにそこまで来ると彷徨しつくした感もあります。おかえりって言ってもらえるのも良いかもしれない、とか思います。

 結局のところ、フェアノールはそれでもとにかく父上が好きなので(もうホント、どう幻滅しても幻滅しきれないどころかいっそう好きになるこの不思議)、逃げ出したいけど傍にいたい、常にこのジレンマである以上、ち、近場もいっか…と妥協します(笑)。
 で、妻と初同居してみたら、なんというか盛り上がって(爆)こどもがぽんぽんぽんと…。こどもが増えると少し感慨も増えてきた、ような気がしました。そのまま流れのままに同居基本で転居していって…。
 最後はフォルメノスです。フォルメノスは砦です。疑心暗鬼のドラゴンの洞窟。そして愛の檻でもありました。

 homeというのは、結局のところ誰にとっても「ひと」が大事なのには変わりないのです。けれども「住む場所」というのは、習慣に沿って作り変えられていく部分があるだけに、やはり感慨のあるものであり、homeとは切っても切れない関係です。
 フェアノールは、それが極端に「ひと」にだけ傾いているような気がします。彼は場所に執着しません。どこだって彼の意識の上では変わりません。ただ少し使い勝手が良いか悪いか、それくらいの認識しかないのです。ですがこれに「ひと」が絡むと認識はすっかり変わります。私の愛しいひとの感慨は私の感慨、なのです。

 フェアノールにとって「うち」は「愛しいひとのいるところ」でした。